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海外展開とグローバル組織

  • 執筆者の写真: Takayuki Nakajima
    Takayuki Nakajima
  • 2 分前
  • 読了時間: 7分

1. アナログ時代の海外営業


2000年代、私はSun Microsystemsで、NECやNTTドコモと連携しながら、日本発のモバイルインターネット技術「iモード」を海外キャリアに展開するプロジェクトに従事していました。

当時、携帯電話から直接ウェブにアクセスできるという発想は世界的に見ても先進的で、iモードはその象徴でした。日本では爆発的に普及し、その勢いのまま、今度は海外展開を進めようとしていたのです。

SlackもZoomもなかった時代。私たちは主にフランス、スペイン、イギリスなどのSunやNECの現地メンバーおよび現地キャリアとの折衝を重ね、一方でアメリカのサーバーの組み立て工場や、日本側とのリエゾンとの役割もしつつ、国境を越えてプロジェクトを支えていました。メールと電話だけでは解決できない課題に直面するたび、私は直接現地に飛んで、膝を突き合わせて話すという泥臭いコミュニケーションを重ねていたことを思い出します。



2. グローバル化とは「物を運ぶ」ことだった


当時のSun Microsystemsの組織は、基本的に各国に法人・拠点を展開し、それぞれの国にカントリーマネージャー(社長)が存在する、一般的な外資系の組織構造でした。営業からバックオフィスまでが基本的にローカルに完結しており、現地の責任者にすべてのレポートラインが集まる、国単位の独立運営がベースにありました。 ただし、マーケティングやエンジニアリング、サービスなどの部門単位では、グローバル側にも機能別の部門ヘッドが存在しており、ドッテドレポートでつながる関係もあります。 現在の日本企業のグローバル組織も概ね同じような構造ではないでしょうか?


一方で、私のようなグローバルアカウントマネージャー(GAM)というのは、いわゆるグローバル企業専任のアカウント部隊で、本社が主導となり、各国のメンバー組織と連携しながら動く、少し難しい役回りでした。 ちなみに、当時のSun Microsystemsは、通信機器向けにSPARC/Solaris/JavaをOEM供給するNEP(Network Equipment Provider)として、NECやNTTドコモの基幹システムにも深く関与していました。実際にNTTドコモの交換機や、世界中の海底ケーブル用EMSの多くにSunの技術が使われていました。


私はGlobal Account Managerとして、NECが提案する海外キャリア向けのWAP/iモードソリューションの中に、SunのOSやミドルウェアを"スペックイン"させる役割を担っていました。NECはHPとも近しい関係にあり、油断するとすぐに切り替えられてしまうリスクもはらんでいたため、Sunの現地メンバーと組んで海外キャリア側の要望を技術仕様として丁寧に落とし込み、実証・パフォーマンス改善・導入支援まで一貫して伴走しました。


たとえば、ある欧州キャリアでは、導入スケジュールが決まっている中、ソフトウェアイメージの微調整が必要となり、米国の工場で出荷直前にイメージを焼き直す必要がありました。ミスがあれば数週間の納期遅延となる中、夜を徹して修正と再出荷の段取りを整えたりとか、思えばインテリジェンスとは程遠い泥臭い仕事だったと思います。

3. “チームをつなぐ”時代のグローバル組織─デジタル化による構造転換


時代は変わりました。特にクラウドやリモート技術の進化、そしてコロナ以降の急速な働き方の変化によって、グローバル組織の在り方は大きく様変わりしました。


Deelのような比較的新しいグローバルプラットフォーマーでは、「国境」という概念自体をあまり前提とせず、グローバルで1つの組織、1つのゴール、1つの制度という設計思想が強く根付いています。つまりどこからでも働け、同じ目標・同じKPIを共有し、同じ仕組みで評価される。その結果国境という概念が無くなり、グローバルで統合された事業体として運営されているのです。


これを実現したのは単にデジタル化の進歩と言って良いでしょう。 つまり、Slackでの透明な情報共有、Notionでのドキュメント中心の知識管理、時差を超えたGitHubの非同期コラボレーションなどです。私がかつて空を飛び、直接交渉していたようなプロジェクトが、今では自由なコラボレーション環境”の中で回っていきます。 こうしたデジタルネイティブな企業では、クラウド、リモートワーク、非同期コミュニケーションが前提のグローバル組織運営が主流となりました。 

私自身もDeelで日本のカントリーマネージャーを務めましたが、それまでの会社でのカントリーマネージャーの役割は従来(=代表取締役)とは異なり、営業組織のみを直接マネジメントし、それ以外のマーケティング、SDR、パートナー営業、カスタマーサクセスといった機能はすべて海外組織に属していました。多くのメンバーは実質的に日本市場専任で活動しているものの、レポートラインはグローバルです。私はそうしたマトリックス組織における“分散リソースプール”を活用しながら、日本市場の事業推進をオーケストレートする役割でした。これは日本のようなローカライズが求められる国においては難しい面がある一方で、経営層視点では、柔軟な経営を行う上で非常にリーズナブルであり、賛否両論あるのも事実ですが、新しい時代のグローバル組織の形だと実感しています。



4. 日本企業の海外展開は、どこまで来たのか?

グローバル展開を目指す日本企業に目をむけると、多くのスタートアップはまず、営業や販路開拓に集中しているのは自然な流れですし、悪いことではありません。ただし、現地人材を初めて採用するタイミングなどでは、一度立ち止まり「これからの組織運営をどう設計するか?」を是非考えていただきたいと思います。

スタートアップだけではなく、日本企業のグローバル組織体制は、未だに“サンマイクロ型”──つまり、各国に拠点を構え、カントリーマネージャーに全てを任せる独立経営モデルがほぼデフォルトのように受け入れられています。

しかし現代は、クラウドやリモートツールの浸透によって「国境に捉われない一体運営」が可能な時代。それにもかかわらず、組織形態だけが過去の構造を引きずったままでは、変化の早いグローバル市場に対応しきれません。

もちろん、現地に根を張り、ローカライズを重視する必要がある業態であれば、従来型のモデルは理にかなっている部分も多くあります。ただし、スピーディーな経営判断や優先度設定、1ゴール・1カルチャー・コスト最適化を重視する企業であれば、共有化できるところは徹底的に共有化するという考え方も視野に入れるべきです。

従って、いま一度、「なぜその組織形態を選ぶのか?」「その形が今後の成長に最適なのか?」ということを問いただしていただきたいと思うわけです。

かつての私は、各国にしっかりと根を張ったローカル体制こそが成功の鍵だと考えていました。しかし、Deelのような“共通の価値をグローバルに届けるプラットフォーマー”としての事業モデルを見ていると、それが唯一の正解ではないと感じるようになりました。


もちろん、プロダクトやターゲット市場によって求められる組織の形は異なります。しかし、“現地で全てを内製する”という前提から一度距離を置き、**「グローバルリソースをどう編成すれば価値を最大化できるか」**という視点を持つことが、今後の鍵になると思います。

項目1

各国分権型(ローカル主導)

グローバル一体型(HQ主導)

判断の迅速性

現場判断が柔軟で早い(顧客対応が速い)

経営判断・リスク対応・方針ピボットが迅速

柔軟性

市場・顧客ニーズへの適応がしやすい

グローバルでの整合性を優先、標準化に強み

コスト効率

拠点ごとの冗長が発生しやすく非効率

標準化と統合スリム化で効率的な運用が可能

生産性

各国で成果がばらつくことが多い

全体最適・機能間連携で拡張可能な生産性

モチベーション

権限移譲で現地責任者の当事者意識が高まる

本社/グローバル視点で働ける満足感

情報の透明性

情報が現地に閉じ、属人化・分断されやすい

迅速な情報共有で判断の一貫性・速度が増す

カルチャー統一

多様性に寛容だが企業文化の一貫性は落ちる

1カルチャーでの統一とブランド一体感

コミュニケーション

現地語や非公式なやり取りに依存し属人的

英語標準化で連携促進も語学ハードルも存在


結び:“越境営業”から“越境組織”へ

昔は、メールと電話と飛行機で「つながっていた」時代。 今は、クラウドとチャットとドキュメントで「つながれる」時代。日本にいながらでも、現地のメンバーと密に連携し、深く連動したチーム運営ができるようになったという意味で、大きな変化を実感しています。

日本企業は、技術や製品の越境だけでなく、組織運営の越境にも本格的に取り組むべきフェーズに来ています。

私自身が体験した“泥臭い”越境営業の時代と、今の“しなやかな”越境組織の潮流。その両方を知る立場から、今こそ「日本発のグローバル組織」を再定義していきたいと思っています。

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