Day4:Alpacaの事例、Y Combinatorから世界へ羽ばたく力
- Takayuki Nakajima
- 3月17日
- 読了時間: 7分
振返り:Born in Japanが海外進出で抱える課題
一方、今回(Day4)では、海外のアクセラレーターを卒業し、海外投資家から資金調達を行い、アメリカ市場を拠点に世界へ事業を拡大するという、いわば「Born in Global」を実践する日本人創業企業(Alpaca:横川代表)へのイベントでのインタビューでお聞きした苦労と経験から、日本企業の海外展開に活かせるヒントをご紹介します。入るのが難しいYコンビネーターを卒業しグローバル感覚を持った数少ない日本人起業家であり、創業当時から海外展開を目指し米国で創業し順調に成長している事例は少なく、きっと大きなヒントになるはずです。
Alpacaとは何者?──米国で生まれ、今は35カ国で展開
Alpacaは、2017年に米国で創業し、米国株のAPIを世界中のデベロッパーに無償解放することを目的としたスタートアップで、現在では世界35カ国にサービスを展開し、175名の従業員が20カ国に分散、ARRは約$20M(推定)に上ります。(2024年12月時点)
ビジネスモデルの骨子
世界中の金融ブローカーサービス等のデベロッパーに無償解放し、APIの利用料で課金をするB→D(開発者)のユニークなモデルを展開しています。
全体のお金の流れとしては、Alpaca自身が米国の証券会社となり、開発者の作ったアプリに組み込まれる形で最終的に消費者から収益が得る仕組みです。(B→B(D)→C)
デベロッパー向けに「使いやすいAPI」を整備し、まずはシリコンバレー界隈の“開発者”たちの信頼を勝ち取ることでビジネスを拡散してきました。
一度はピボットしたようですが、最終的にはこのアイデアが当たり、「国境を乗り越えるサービス開発」「グローバル規模でのPMF」を目指してきた結果、コードやAPIを触るデベロッパーたちが熱狂的な支持を集め、今ではアメリカだけでなく世界中でユーザーが増え続けています。 世界中の消費者が少なくても投資信託などで米国株を購入するケースは高く、事業が成長し続けている背景も頷けます。

1. 「Y-Combinatorバッジ」の価値を掴む
Alpacaは、世界有数のスタートアップ支援プログラから卒業した企業です。YCバッジを得るメリットは色々とあるといいます。
投資家や業界関係者からのブランド信頼(「YCを卒業したスタートアップなら…」という安心感)
同期・卒業生とのアルムナイネットワーク(開発連携や投資情報交換が円滑)
プログラム期間中のKPI重視カルチャー(毎週の進捗報告でPMFを強く意識させられる)
YC卒業後は、米国投資家や市場からの注目度が一気に高まり、採用や提携、追加投資もスムーズになったといいます。そしてシリコンバレーの起業コミュニティで確固たる地位を築けば、その勢いを世界展開に活かすことが可能です。
2. 最初にSMBやデベロッパーコミュニティを攻略
Alpacaは、大企業(エンタープライズ)を狙う前に、小規模顧客やデベロッパー向けにフォーカスしてきました。理由は
“使いやすいAPI”を徹底して磨き、エンジニアや開発者コミュニティで話題を作り、広告費をかけなくとも、口コミ的にプロダクトが広がる仕組みを構築したかった。
その後にエンタープライズ向け機能を追加し、自然と大企業案件へ発展することを期待した。
米国では優秀な開発者はスタートアップ/小規模顧客であり、最初はあえてスモールセグメントに入り込み、PMFを固めつつ信用を稼ぐ――というアプローチを徹底しました。日本と同様に、大企業の攻略には時間とコストがかかる上、製品の方向性を変換せざるを得なくなるケースもあり、プラットフォーマーとして世界展開するならSMBを先行させることが正しいと判断されました。
3. コードに国境はないが、規制対応は本気でやる
「米国株API」というプロダクト上、Alpacaは世界中の開発者を対象に「国境なき」サービスを目指してきました。しかし、その裏で各国の証券法・金融規制などをクリアしなければならないのも事実でした。そこで
まずは世界最大の株式市場であるアメリカを最初の市場として選択しました。米国で成功すれば、海外投資家も自然と集まるため、その後の海外展開にも有利です。
そのため最初は米国市場にフルコミットし、現地ライセンス取得や法務対応には専門家や投資家ネットワークをフル活用し、着実に乗り越えてきました。
一方で、コード設計自体は国に依存しないユニバーサルな作りを徹底し+地域ごとの規制部分だけをローカライズ対応する、という思想を実践してきました。
コードは国やカルチャーを超える世界共通の言語であり、開発者コミュニティ自体はグローバルに繋がりやすい一方、法令・行政対応は国ごとに大きく異なるが、それを乗り越えることで競合に対しての参入障壁を作ることもできました。
4. 失敗やダウンラウンドを“ピボット”で乗り越える
Alpacaは、創業当初、B→Cモデルで個人のアルゴ開発者を対象にしていましたが、事業がスケールせず資金難が重なり、一度は社員を半分に減らす事態に陥りました。
大きな困難に直面し一度はカリフォルニアの海に飛び込んだという逸話を披露されていましたが、創業者の揺るぎないビジョンと自信が米国投資家の心を動かし、SPARK Capitalなど大手から新たな支援を獲得し、B→B(D)→Cにビジネスモデルをピボットしました。(※開発者向け無償API→取引量に応じた収益化モデル)
ただ一貫して、世界中の開発者に米国証券のAPIを売る、というコアコンピンシーは変えず、結果として現在のARR $$20M超えの企業へと変貌しました。
このように、一見順調に見える企業でも、ほとんどの企業は最初から成功の連続ではなく、挫折や資金難に向き合う瞬間も多いものです。ただし、早期にビジネスモデルを切り替える勇気と、創業者の明確なビジョンと、それを証明する徹底的なPMFが成功すれば、大きな危機も乗り越えられることをAlpacaは示しています。
まとめ|Alpaca流「Born in Global」のエッセンス(表)
上記4つのポイントは、米国で起業しグローバル視点を持つALPACAならではの戦略です。一方、“Born in Japan”であっても、海外に打って出るうえで取り入れられる要素がたくさんあります。以下の表に、主な学びを簡潔にまとめました。

最近ではJETROが中心となり、500、Plug-n-Play、Antler、TechStar、Alchemist、などの海外アクセラレータープログラムに手軽に参加できます。賛否両論ありますが、創業当時から海外に通用するPMFや海外のステークホルダーとのネットワーキングを作るのであればこうしたプログラムを活用するのは1つの手だと思います。
また海外展開のシナリオは大事だが、その第1歩としてどの市場にPMFするのかしっかり絞りこみ、そしてそれを徹底するということの重要性も学びました。
またユニークなビジネスモデルを作り込めば参入障壁をしっかり作り込める。Alpacaの場合はB-Dのモデル、そして柱となるプラットフォーム戦略を維持しつつ各国の法制に1つ1つ対応させ35カ国への展開を果たしてきました。
挫折からいかにピボットするか、そこには素早い判断が重要である一方で、創業者のビジョンに対する信念も大事であるということを学びました。
こうしてみると、海外に拠点を置くスタートアップでも、失敗や規制対応といったハードルは決して少なくありません。しかし、PMFへの徹底したこだわり、コミュニティを重視した顧客獲得、創業者の揺るぎないビジョンなどは“Born in Japan”の企業が海外へ挑む際も共通して活かせるポイントと言えるでしょう。
次回は(Day5)、「日本の食品企業の海外進出事例」を通じて、さらに別の角度から“Born in Japan”のローカライズやブランド戦略を探っていきます。どうぞお楽しみに!
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